2022.02.18
1980年代、ちょうど日本がバブル経済で沸いていた頃、世界の半導体業界において、日本企業は6社が売上高でトップ10ランキングに入り、業界を席巻していました。当時日本の半導体産業は「日の丸半導体」と称されて、その強さを内外に示したものです。しかし、あれから約40年近くが経過し、半導体業界の勢力図は、すっかり様変わりしてしまいました。中国や台湾の企業が大きく台頭し、日本企業は鳴りを潜めてしまった感があります。かつては多数の総合電機メーカーやその他のメーカーも多角化経営の一環として半導体を生産していましたが、その後不採算事業として売却や合従連衡が相次ぎました。現在では、専業メーカーを含めて、主要な日本の半導体メーカーの数は、指で数える程度にまで減少しています。昨今、半導体不足が慢性化しつつありますが、半導体メーカーの減少は、産業全体の衰退につながると言っても過言ではありません。そのような中、日本も外資系半導体メーカーを誘致することで、半導体業界の復興、そして強化に乗り出し始めました。これから日本経済を立て直し、新興国との競争に勝ち残っていくためには、外国資本も積極的に呼び寄せて、半導体産業の強靭化に取り組まないといけないところにまで、状況が差し迫ってきています。今回は日本の半導体メーカー誘致にスポットを当てて、その最前線について、見ていきたいと思います。
1980年代の日本の半導体産業は、まさに世界で覇を唱える地位にありました。1988年の半導体売上高トップ10ランキングを見てみると、NEC・東芝・日立製作所・富士通・三菱電機・松下がランクインしています。かつて日本の半導体メーカーは、工場にクリーンルームを導入するといった画期的な取り組みや大型コンピューター・通信機器向けに高品質な半導体を開発・供給することで、世界の市場をリードしてきました。しかし、市場のメイン商品がパソコンにシフトしていった頃あたりから、いかに安い半導体を供給できるかに市場ニーズが変化し、日本メーカーの過剰品質問題が足を引っ張ることになります。こうして日本の大企業によくある投資意思決定の遅さなど構造的な要因もあって、高品質ではないが、とにかく安さを売りにする新興メーカーに次々と市場シェアを奪われていくことになりました。直近の2021年の売上高ランキングによると、軒並みアメリカ企業やサムスン(韓国)、TSMC(台湾)が上位を占めており、日本勢はキオクシア(旧東芝メモリ)のみが、辛うじて12位に名を連ねている結果となっています。
先述の通り、全体的には日本の半導体産業は、諸外国のメーカーにシェアを獲られて、地位を落としています。しかし、特定の分野では、まだまだ強さを誇っており、日本企業の底力がうかがい知れます。例えば、ソニーはスマホに搭載されるCMOSイメージセンサーで、世界シェアの半分を占めています。また、ルネサスエレクトロニクスは、車載半導体では世界ランキングの上位にあります。さらに最近注目を集めている次世代半導体であるパワー半導体分野では、ロームや富士電機等といったメーカーの存在感も大きいと言えるでしょう。これから日本の半導体産業が、かつてのような輝きを取り戻していくためには、日本企業ならではの先進的な研究開発力に加えて、スピード感を持った市場開拓力が求められていくことになります。そして今、半導体産業の底上げに向けて、日本政府も本腰を入れてきています。国家の力も活用しながら、官民一体となって、日の丸半導体の復活が期待されるところです。
昨年、ソニーとファウンドリー(半導体受託製造会社)で世界トップの台湾TSMC社が、熊本県に合弁工場を設立すると発表しました。これは日本の経済産業省が2019年5月頃から誘致を進めてきた案件で、約2年にわたる交渉を経て、ようやく結実することになりました。新工場の投資総額は約8000億円と言われており、このうち約4000億円については、日本政府が補助金で支援するという、前代未聞の大型プロジェクトです。日本としても、このプロジェクトを第一弾の目玉として、外資系半導体メーカーの誘致を積極的に展開していきたいという思惑も感じられます。それと言うのも、そもそも半導体産業は、金食い産業と言われ、多額の資金が無ければ、ビジネスを興していくことが非常に難しい事業です。今の日本で、新たな半導体メーカーが勃興してくると考えるのは難しそうです。そうすると、外資系半導体メーカーを日本に導入して、業界を強化・活性化していくやり方は、極めて合理的であると言えるでしょう。この手法は中国が最も得意としていますが、日本も自国自前主義ばかりにこだわらず、このように思い切った施策の断行が望まれるところです。今回のソニーとTSMCの新工場建設は、税金を投入することもあり、賛否両論があるようです。しかし、期待以上の成果が得られれば、今後の外資系半導体メーカーの誘致に弾みがつき、世間の見方も変わってくるはずです。その意味でも、このプロジェクトは試金石であり、国民としても将来の推移をしっかりと見守っていく必要があるでしょう。
もう1つTSMCの日本進出に関連して、茨城県つくば市に研究開発拠点を設置することが決定しています。この新拠点の総事業費は約370億円で、やはり日本政府が約半分の190億円を補助金として拠出します。ここでは半導体の後工程における材料の研究開発が行われるということです。TSMCはファウンドリーですから、半導体の前工程に強みを持っており、後工程は比較的手薄だったと言えます。今後、後工程分野を補強していくために、関連領域で強い企業が多数存在する日本での協業を望んでいると言えるでしょう。実際に20社以上の日本企業が、この新拠点に参画予定とされています。パートナー企業としては、旭化成・富士フイルム・三井化学・ディスコなど半導体材料・装置の名だたるメーカーが顔を揃えており、日本側も力の入れようが伝わってきます。
台湾TSMCの設立は1987年です。ちょうど日の丸半導体が全盛期だった頃と重なります。今のTSMCの破竹の勢いから振り返ってみると、この頃に半導体業界は潮目が変わり出したと言えるかもしれません。日本企業は材料から一貫生産する垂直統合型モデルでしたが、TSMCのようなファウンドリーが登場したことで、製造に特化した分業手法の半導体メーカーが、業界の先頭を走っていく時代に変化することになりました。半導体のようなハイテク産業は日進月歩ですから、トレンドの先読みを一歩間違えると、たちまち不利な状況に追いやられてしまいます。それだけ難しいビジネスということですが、最先端の外資系企業を誘致して、自国産業の強化にも役立てるという手法は、経済の地盤沈下が危ぶまれる日本においては、今後も各種産業で取り入れていくべきでしょう。Resoryでは世界各地でマーケティング・リサーチ業務を行っています。今回取り上げた半導体などのハイテク産業やニュービジネスにおいては、先述の通り、とにかくトレンドの予測が欠かせません。そして、Resoryでは、そのようなお手伝いをさせて頂くことが可能です。Resoryの強みは、世界各国で活躍する業界エキスパートとの強力なネットワークと協業体制を構築していることです。インタビューやアンケートなどを通じて、インターネットや既存メディアでは決して入手ができない海外の活きた生情報をご提供させて頂くことができます。トレンド予測においては、リアルタイムで海外の市場動向を把握しておくことが、極めて重要です。コロナ禍で自由な海外渡航が、まだまだ制限されている今こそ、Resoryをご活用頂いて、皆様の海外マーケティング・リサーチの一助として頂ければ幸いです。海外のマーケティング・リサーチでお困りの場合は、是非一度Resoryまでお気軽にご相談下さい。