Resory

お問い合わせ 資料ダウンロード

2022.02.04

【台湾TSMCが握る半導体産業のゆくえとは?】米中の間で揺れるTSMCの新工場建設

世界的に半導体不足が続いています。これまでもこのブログの中で、何度か触れてきました。半導体不足によって、日本では新車の生産台数が落ち込んでおり、トヨタは2月も減産を発表したところです。今後も半導体の旺盛な需要は継続していくと思われ、半導体不足を解消するには、グローバルレベルでの供給能力を底上げしていくしかありません。このような中、カギを握っているのは、ファウンドリーと呼ばれる半導体受託製造メーカーです。ファウンドリーとは、半導体メーカーの設計・開発に基づいて、半導体製造のみを請け負うメーカーのことです。特にその世界最大手である台湾のTSMCの動向は、この先の半導体供給を予測するバロメーターとして、世界中から注目を集めています。TSMCはお膝元の台湾と中国・南京に工場を構えていますが、ここ最近、諸外国からの誘致を受けて、海外工場を新規設立する動きを加速させています。日本でも熊本県に工場を建設することが、昨年決定しました。半導体不足のキープレーヤーであるTSMCの動きとこれを取り巻く情勢について、見ていくことにしましょう。

「日本上陸」が決まったTSMC

昨年、世界最大手のファウンドリーTSMCが、日本に新しい工場を建設することを決定しました。場所は熊本県菊陽町で、ソニー半導体子会社の工場に隣接する所で、近くには半導体製造装置大手の東京エレクトロンの工場もあります。まさに半導体業界の役者がそろう場所に進出を決めたわけです。この工場建設にあたっては、日本政府が約4000億円もの税金を補助金投入するという大盤振る舞いです。新工場は2024年の稼働を目指して、約1500人の雇用が検討されています。TSMCはファウンドリー業界において、世界シェア50%強を占めるトッププレーヤーです。特に電子機器のコア部品であるロジック半導体において、その生命線とも言える微細な回路幅の開発・生産能力にTSMCの強さの秘密があります。2020年、TSMCは世界に先駆けて、すでに5ナノメートル(1ナノは10億分の1メートル)回路幅の半導体量産化に成功しています。しかし、今回熊本県の新工場で生産が予定されているのは、回路幅22~28ナノメートルの汎用型半導体ということです。同じくこれからアメリカのアリゾナ州で建設予定の工場では、5ナノメートル以下の半導体の生産が予定されていることから、日本の工場は見劣り感が否めません。これには日本とアメリカの政治力の差が反映しているようにも思えますが、ともかくファウンドリー企業そのものが存在しない日本において、世界最大手TSMCの誘致に成功したことは、意義のあることです。これに追随するように他の海外ファウンドリーも日本に呼び寄せることができるなら、日本の半導体産業の復興、そして強化に大きく寄与してくれると期待せずにはいられません。

アメリカ・アリゾナ州にも進出へ

先述の通り、TSMCはアメリカのアリゾナ州にも約120億ドルを投じて、新工場を建設することが決定しています。2024年から稼働を開始する予定で、主にスマートフォン、CPU(中央処理装置)やGPU(グラフィック処理装置)向けの回路幅5ナノメートル半導体を量産していくことになります。1カ月あたりのウエハー生産枚数は、2万枚が見込まれています。アメリカはトランプ前大統領時代から、自国での半導体供給の必要性を強く主張しています。これには経済安全保障上の観点から、中国との摩擦対抗が背景にあることは言うまでもありません。アメリカが中国のファーウェイに対して、半導体製品の輸出に制限を掛けたように、現在半導体は米中2強時代を左右する「国家戦略物資」と化しています。アメリカにとっては、いかに半導体サプライチェーンを牛耳ることができるかは、対中国政策において譲ることのできない重要なファクターになっているわけです。また、韓国のサムスンもアメリカ・テキサス州オースティン郊外に170億ドル規模の新工場を建設する予定となっています。2022年から建設に着工し、2024年後半の操業開始を目指していきます。このように見てくると、半導体同盟が、国際間の政治・軍事同盟と同じになっていることが明確に分かるかと思います。したがって、TSMCは当初からセットで日米進出を検討していたとも考えられ、台湾独立を掲げる台湾政府と中国を意識した決断であったことが推察されます。

ドイツにも新工場誕生か?

TSMCは日米に続いて、ドイツとも新工場建設に向けた交渉に入っていることが、すでに報じられています。ドイツ進出の最終決定までには、ドイツ政府からの補助金や現地での需要、人材確保などを検討する必要があり、工場候補地についても未定とのことです。現在、欧州はアジアへの依存度が高い半導体産業について、欧州域内での自給率を高めるべく、「欧州半導体法」を制定する方向で動いています。欧州半導体法の枠組みの中で、TSMCのドイツ進出が具体的にどのように位置付けられるかは、今後明らかになってくることでしょう。しかし、半導体産業の未来が、国際政治の力学をベースにして開けてくるとするならば、ドイツの他にもTSMCの新たな欧米拠点が展開されてくることは、容易に想像できると思います。そして、逆に欧米の半導体メーカーが中国に吸い寄せられて、中国新工場を建設する可能性が出てくることも忘れてはならないでしょう。

まとめ

昨今の半導体不足は、単純に供給が需要に追い付いていないという物理的なことに起因しています。そして、その裏では、半導体がかつてないほどに政争の具になっているように思われます。まさしく米中間の対立が引き起こしたとも言える半導体戦争は、次世代の需要拡大とも相まって、今後ますます激化していくことでしょう。TSMCを抱える台湾は、独立問題を巡って、中国とのにらみ合いが続き、そこに関与するアメリカが半導体産業をカードとして、どのような対中外交を展開してくるのか、予断を許さない状況が続きそうです。2024年にTSMCの日米新工場が立がった後、新たな道筋が見えてくるかもしれません。Resoryでは世界各地でマーケティング・リサーチ業務を行っています。今回取り上げた半導体やファウンドリー業界などトレンドになっているビジネスから、様々な市場や業界動向に至るまで、世界各地でマーケティング調査を展開しています。Resoryの強みは、世界各国で活躍する業界エキスパートとの強力なネットワークと協業体制を構築していることです。インタビューやアンケートなどを通じて、インターネットや既存メディアでは決して入手ができない海外の活きた生情報をご提供させて頂くことができます。コロナ禍で自由な海外渡航が、まだまだ制限されている今こそ、Resoryをご活用頂いて、皆様の海外マーケティング・リサーチの一助として頂ければ幸いです。海外のマーケティング・リサーチと言えば、是非一度Resoryまでお気軽にご相談下さい。