2021.11.30
今年10月31日から11月13日まで、イギリスでCOP26が開催されました。COP26とは、第26回気候変動枠組条約締約国会議のことで、世界の気候変動対策や二酸化炭素排出量の削減などについて話し合う会合です。かつては、エアコンや冷蔵庫のフロンがオゾン層を破壊し、地球温暖化に繋がるとして、様々な対策や議論がなされてきました。そして昨今は、「脱炭素」や「カーボンニュートラル」をキーワードとして、石炭火力発電の抑制、風力発電など次世代グリーンエネルギーの創出、ガソリン車から電気自動車への切替というように、20世紀からすると、比較にならないくらい包括的でさらに踏み込んだ提唱にまで発展しました。世界が一丸となって気候変動や地球の環境問題に取り組むようになってきたのは、それだけ世界経済の発展の裏側で、地球が傷んでいくことに誰しもが危機感を抱いている表れと言えます。地球の生態系を守っていくことは、何も国家に任せっきりで良いというわけではなくて、事業活動を行う企業にも強く求められていく姿勢です。特に世界中でビジネスを展開する多国籍企業にとっては、今後ますます不可避な経営課題となっていくでしょう。今回の記事では、ドイツの世界最大手自動車部品メーカーであるBOSCHのカーボンニュートラルに対する取り組みを事例として挙げます。企業の具体的な活動を学ぶことで、脱炭素時代の未来について考えてみたいと思います。
先ず冒頭でも触れた最新のCOP26について、整理してみたいと思います。世界の気候変動や地球温暖化対策について話し合うCOPは、1995年の第1回目からほぼ毎年のように開催されています。1997年に京都で開催された第3回目COP(COP3)では、いわゆる「京都議定書」が採択されて、先進国に対して温室効果ガスの排出削減が義務付けられました。そして、2015年のCOP21では「パリ協定」が締結され、産業革命前と比較して、世界の平均気温上昇幅を1.5度に抑えるよう努力していくことが合意されました。そして今回のCOP26ですが、この1.5度が公式文書に明記されたことで、二酸化炭素の排出量を削減するなどして、世界が正式な目標として取り組んでいくことが定まりました。この1.5度という気温上昇幅を実現するためには、まだまだ二酸化炭素の排出量が多い発展途上国にとっては、ハードルが高く、先進国からの支援が必要となります。2009年のCOP15では、先進国から発展途上国への資金援助を2020年までに毎年1000億ドルまで増やすことが目標とされましたが、未達に終わりました。今回のCOP26においては、2025年に向けてこれを実現するために努力を継続していくことも合意されました。
<気候変動枠組み条約締結国の排出量推移>
(出所)第一生命経済研究所
BOSCH(ボッシュ)は、昨年2020年に自社の世界400箇所以上の拠点において、二酸化炭素排出量を実質的にゼロとするカーボンニュートラルをすでに達成しました。世界がカーボンニュートラルに向けた施策に着手している真っ只中にあって、早くも目標を実現したボッシュの取り組みとは如何なるものか、以下具体的に見ていくことにしましょう。
・スコープ1:
事業の中で直接的に排出される二酸化炭素を削減すること。先ず初めに身近なできるところから脱炭素に向けて動いていくということです。例えば、事業所のエアコンや社用車の使用において節制する取り組みです。また、断熱によって使用エネルギーを効率化したり、工場の屋根に太陽光発電を設置するなどして、エコを意識したグリーンエネルギーの活用を実践しています。
・スコープ2:
間接的に利用するエネルギーに対する取り組みです。例えば、外部から購入する電力に対して、どのような方法で発電されているのかについても、ボッシュが自社の責任範囲として捉えて、調達を行うということです。特にグリーンエネルギーの調達では、発電企業の情報確認をしっかりと行っています。また、グリーンエネルギーの調達が不足する場合は、カーボンクレジットの利用も検討し、森林投資など適切な事業計画を実行して、カーボンニュートラルの維持に努めています。
・スコープ3:
自社製品のサプライチェーンに関係する取り組みです。川上となる製品の材料や部材の調達、そして川下となる製品の輸送やリサイクル、使用の各段階における二酸化炭素の削減です。スコープ1、2とは異なり、スコープ3は自社のみで完結するわけではないため、実現が難しい点も多々存在します。ボッシュでは、スコープ3に関して、2030年には15%の削減を目指しているということです。特に製品ユーザーの使用における二酸化炭素削減は難度が高いため、製品をさらに省エネ化することで、その実現に向けて取り組んでいます。
さて、ここでもう1つ気候変動対策・カーボンニュートラルの実現に向けて期待されている風力発電について、日本の取り組みをご紹介したいと思います。日本政府は2050年の脱炭素化社会の達成を目指して「グリーン成長戦略」を打ち出しています。その目玉となるのが洋上風力発電です。なぜ洋上風力発電に力を入れていくのか、3つの理由が挙げられています。1つ目は大量導入が可能ということです。国土の狭い日本では陸上風力発電は難しい面がありますが、洋上風力なら四方を海に囲まれた日本では有望だということです。2つ目はコスト低減です。風車を大型化して電気を量産することで、コストの削減を狙っていくことができるとしています。そして、3つ目は経済への波及効果です。洋上風力発電は、プロジェクト単位の事業費が数千億円にも上ると見られています。しかし、今後、洋上風力発電の設備を輸入品から国産品にシフトしていくことで、関連する製造業への新たな収益源の波及を見込んでおり、経済効果も大きいと期待されています。洋上風力発電がカーボンニュートラルの切り札となるのか、まだまだ課題は多そうですが、海上で多数の風車が稼働する圧巻の光景が、近い将来に日常的な場面になるかもしれません。
COP26で気温上昇幅を1.5度以内に抑制することが定まりましたが、現実は既に1.0度以上の気温上昇となっています。21世紀末には2.4度上昇しているとする見方もあり、決して楽な目標とは言えなさそうです。確かに猛暑日が長く続いたり、洪水が頻発し、台風が大型化するなど、昔に比べると温暖化による異常気象が多くなっていることは、生活者の視点でも感じるところは多いはずです。地球の悲鳴に対してどのような対応ができるのか、ボッシュの事例にならって、我々も先ずは身近なところから、省エネや環境保護に取り組んでいくべきだと思います。個人の取り組みが企業や社会、そしてグローバルな好循環へと繋がってこそ、やっと地球を守っていけるところまで温暖化の限界が迫っていることを肝に銘じたいところです。Resoryは世界各地でマーケティング・リサーチ業務を行っています。海外市場や業界動向、そして現地企業の動きなどを世界各国で活躍する様々な業界のエキスパートと協業して取り組んでいます。海外現場でのインタビューやアンケートなどの実施を通じて、海外の活きた生の情報をご提供させて頂くことが可能です。コロナ禍で海外渡航が難しくなって、2年近くが経過しようとしています。まだまだ終息の見通しは不透明です。そのような今こそ、是非ともResoryをご活用頂いて、皆様の海外ビジネスの一助として頂ければと思います。海外のマーケティング・リサーチと言えば、お気軽にResoryまでお問い合わせ下さい。