2021.11.17
最近、経営学の領域で「パーパス経営」という新たな概念が注目を集めていることをご存知でしょうか?パーパス(Purpose)とは「目的」を意味しますが、目的に基軸を置いた経営と理解することができると思います。経営を巡る議論や研究は常に先端的であり、企業やビジネスのあり方を映す鏡と言えます。経営手法における様々な新しい取り組みや考え方は、いつも欧米で誕生して、やがて日本に流入して来ることが多いようです。パーパス経営もこれから日本で根付いていく経営モデルの一つと見られています。一見特別変わった意味は無いようにも捉えられますが、今なぜ世界がパーパス経営を志すようになっているのか、その背景を考えてみたいと思います。そして、パーパス経営の実践を通じて、今後企業はどのような未来を手に入れることができるのか、その将来像についても触れてみます。欧米企業の具体的なパーパス経営の事例もご紹介しながら、見ていくことにしましょう。
昨今、パーパス経営の導入が増えてきている背景には、以下の3つの点があると考えられています。1点目は顧客・市場からの要請です。世界は今「エシカル消費」に向かっています。エシカル(Ethical)とは倫理的・道徳的という意味ですが、人や社会、環境に配慮した消費行動のことを意味します。エシカル消費に適った商品やサービスを提供できない企業は、今後存在価値を失って、淘汰されていく可能性があります。このような顧客・市場からの厳しいニーズに企業は対応していく必要に迫られています。2点目は人財観点による企業の選択です。2000年代以降に生まれたミレニアル世代の人たちは、社会や環境に良いビジネス活動をしているかどうかという視点で、就職先の企業を選ぶ傾向が強くなってきています。未来の若者たちは、単に規模が大きいとか知名度があるという理由だけでは、自分の仕事場として企業を選択しなくなっていくでしょう。そして3点目は金融市場による投資先の選別です。ESG投資という言葉を耳にする機会が多くなっています。Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)を重視した経営に取り組んでいる企業に対して、金融機関や投資家は資金を振り向ける流れが世界的に広まりつつあります。企業として利益を稼ぐことはもちろんですが、今後それだけではお金を集められなくなってきます。以上のような要因から、パーパス経営に取り組む企業が増えてきているのです。
パーパス経営はこれまでの経営手法と具体的に何が違うのでしょうか?その中身について見ていきたいと思います。従来より企業の経営理念として、Mission(ミッション)、Vision(ビジョン)、Value(バリュー)を掲げる企業は多いと思います。自分が勤める会社や取引先で、これらを目にすることは日常的ではないでしょうか。Missionは使命のことですが、外部から与えられる指示という印象があります。Visionは構想。ミッションを遂行することで実現する未来と定義することができます。そして、Valueは価値観であり、ミッションやビジョンを具現化していくための企業や従業員のあり方や姿勢のことです。これらは比較的に外発的な概念と捉えられます。一方で、パーパス経営における経営理念は、もっと内発的なものと考えられています。先ずはPurpose(目的)。企業の内部から湧き出てくるような強い意志です。次にDream(夢)ですが、単なる夢想のことではなく、従業員が一丸となって叶えていくべきリアリティのある目標のことです。最後はBelief(信念)ですが、これも内的な意味合いが強く、企業の皆一人一人に刻まれている思いと見なすことができます。企業はより社会との接点を意識して、その存在意義を世に問うべく、経営活動を行っていくことが求められています。そのためにはパーパス経営を実践し、目的の達成を通じて、成果の実現と社会への還元がますます重要になってくると言えるでしょう。
さて、実際にパーパス経営に取り組んでいる企業の事例をご紹介したいと思います。皆さんよくご存じのネスレです。ネスレは世界を代表するスイスに本社を置く食品メーカーです。ネスカフェやチョコレートのキットカットなど多数の有名ブランドを持っています。ネスレのパーパスは「Good food ,Good life」です。栄養ある食品の提供を通じて、人々の生活向上に資することを企業の目的としています。また、同社は世界有数のコーヒー豆のバイヤー企業でもあります。コーヒー豆を買い付ける中で、生産量と生産者の所得を上げる助言活動も行っています。ビジネス活動の一方で、農地や生産者を守り、育てていくことに注力しているのです。さらに、食品の原材料を家畜肉から植物肉へ切り替える動きも始めており、持続可能な社会の実現のために貢献しています。企業は利益追求だけではなく、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)の考え方を経営に取り入れて、ステークホルダー(利害関係者)との良好な共生に努めていくことがいかに重要であるか、ネスレのパーパス経営は示しています。
パーパス経営を通じて、これから企業はどのような変化を遂げることができるのでしょうか。最後に整理してみます。先ずパーパスをしっかりと定めることは、企業のサスティナビリティ(持続可能性)とESGの向上をもたらします。企業の存在の前提は永続性にありますから、これらが向上することは最もメリットがあると言えるでしょう。そしてネスレの事例でも触れたように、パーパスの実現は、顧客・従業員・投資家・社会といった様々なステークホルダーから支持や信頼を獲得することにも繋がります。ステークホルダーを重視した経営を実行しなければ、これから企業が生き残っていくことは難しいと言えます。このように企業価値が高まっていくことは、従業員のワークエンゲージメントもより強固なものへと変わっていくはずで、それが最終的には企業に利益という結果を生み出し、好循環となって企業の発展と繁栄を導くものだと思います。
パーパス経営の重要性は既に述べてきた通りですが、大切なことはパーパスを標榜するだけではいけないということです。冒頭の通り、先進的な経営手法は欧米発信で日本に導入されることが多いと言えますが、とにかく流行りの手法を取り込んで、世界の潮流をただなぞるだけでは、真の経営改革は実現しないでしょう。海外の経営を丹念にスタディしながら、日本流にアレンジして、しっかりと内容を充実させて実行していくことが求められるのではないでしょうか。Resoryでは世界各地でのマーケティング・リサーチを行っています。今回テーマとして取り上げた海外企業の経営現状や業界動向なども対象にしたリサーチ業務を展開させて頂いております。特にB to C企業など消費者産業においては、世界各国で活躍するエキスパートと強力なネットワークを構築しており、彼らと協業して、海外での現場調査を行っております。コロナ禍で自ら海外に渡航してリサーチすることがまだまだ困難な状況にあります。そのような今こそ、是非ともResoryにご相談頂き、海外現場の新鮮な生情報を入手して、皆様のビジネスにご活用頂ければと思います。海外のマーケティング・リサーチなら、Resoryまで一度お気軽にお問い合わせ下さい。