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2021.10.13

【国産ワクチン誕生まで、もうあと一歩!】欧米主導のワクチンプラットフォーム開発と日本の製薬事情

9月30日をもって全国的に発令されていた緊急事態宣言が、ようやく解除されました。ここ最近は新型コロナの新規感染者数も大きく減少し、落ち着きつつある状態といえます。日本は他の先進国と比較して、ワクチンの接種がかなり出遅れましたが、10月1日時点で約70%の人が1回目の接種を終え、約60%の人は2回目も接種済みの状況となっています。現時点でアメリカは約65%ですから、日本は接種率を大きく挽回してきていると言えるでしょう。アメリカ、ヨーロッパ、そして中国は早くから国産ワクチンの開発に成功したことで、今年初めより急速にワクチンの普及が進みました。日本は海外からの輸入品に依存する形でワクチン接種が始まりましたが、そろそろ国産ワクチンの投入開始も見えてくる段階にまで入ってきました。今回の記事では、欧米と日本のワクチン開発になぜこのような差が生まれたのか、その背景などについて探ってみたいと思います。ワクチンプラットフォームやワクチンに絡む日本の歴史的経緯にも触れながら、解説していきます。 

ワクチンプラットフォームについて

先ずはワクチンプラットフォームについて、見ていきたいと思います。ワクチンプラットフォームとは、簡単に言うと、新型コロナ用ワクチンの開発ベースとなる型のようなものです。アメリカやヨーロッパの大手製薬会社がワクチンプラットフォームを主導的に開発して、新型コロナ向けのワクチンをリリースしました。以下、その代表的なワクチンプラットフォームであるmRNAワクチンとウイルスベクターワクチンについて解説していきます。 

mRNAワクチン

mRNAワクチンは、感染性が無いこと、細胞成分などの混入が無いこと、そして生産コストが安くて、比較的簡便であることなどが利点とされています。一方では、強い副反応や生体内での翻訳・発現効率のハードルの高さがあるとも指摘されています。新型コロナの流行前には、HIVや狂犬病などに対する感染症予防mRNAワクチンの臨床試験が行われていましたが、いずれも実用化にまでは至りませんでした。今回の新型コロナに対するmRNAワクチンとしては、モデルナ社のmRNA-1273、ビオンテック社やファイザー社のBNT162B2が挙げられます。これらは海外の複数国において、正式承認や緊急使用許可を受けて、すでに接種が行われています。 

ウイルスベクターワクチン

ウイルスベクターワクチンは、ヒトに対して、無毒又は弱毒性のウイルスベクターに目的の抗原タンパク質(ワクチンのもとになる物質)をコードする遺伝子を組み込んだ組み換えウイルスを使用しています。ヒトの体内で複製が可能なものと不可能なものがあるとされています。ウイルスベクターワクチンの利点としては、抗原タンパク質の発現安定性などが挙げられます。しかし、ウイルスベクターそのものによる病原性や使用するウイルスベクターによっては、ヒトゲノムへのウイルスゲノムの挿入変異による発がんなどのリスクが指摘されています。新型コロナに対するウイルスベクターワクチンとしては、アストラゼネカ社のChAdOx1nCoV-19(AZD1222)があり、イギリスにおいて使用が認められ、接種が開始されました。 

なぜ遅い?日本のワクチン開発 

日本でワクチンの接種が進む一方で、国産のワクチンが依然として、まだ登場していません。これはなぜなのでしょうか?確かに、欧米は製薬会社の新薬やワクチン開発に対するビジネス基盤が充実しており、そもそも開発スピードが速いという背景があります。前述のファイザー社やアストラゼネカ社といった製薬メーカーは、数年はかかるだろうと思われた新型コロナワクチンを1年も待たずに製品化しました。一方で、日本のワクチン開発は、「不活化ワクチン」という伝統的な技術が主流で、前述の欧米のようにワクチンプラットフォームを活用した新たなワクチンの創出において、これまで成果をあげられていないという事実があります。不活化ワクチンとは、インフルエンザ用のワクチンに用いられ、卵で培養したウイルスを不活化させるものです。しかし、新型コロナウイルスのワクチンでは、このやり方は有効的ではないと言われています。また、アメリカには「EUA」という緊急使用許可制度があります。今回のパンデミックのような緊急時においては、平時とは異なって、新しいワクチンの薬事承認を迅速に進められる仕組みを整えています。日本にはこういったインフラや制度面での未熟な点があり、ワクチン開発において、世界に後れを取ってしまうことになったわけです。

ワクチン薬害への警戒

過去、日本ではワクチンによる薬害が問題になったことが何度もあります。例えば、1948年から翌年にかけて、ジフテリアの予防接種において、製造会社のミスが原因で多数の健康被害者が出ました。1989年から1993年にかけては、MMR(はしか、おたふくかぜ、風しん)に対するワクチン接種で、多くの子供に無菌性髄膜炎の感染を引き起こしました。この他にも近年では、子宮頸がんの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染予防のためのワクチン接種で、その副反応が問題になりました。このようなワクチン薬害の歴史が、日本の国民感情に暗い影を落とし、ワクチンへの警戒心を抱かせていることも見過ごすことはできません。国産ワクチンの早期投入が実現しない理由には、こういった背景も理解しておく必要があると言えます。 

国産ワクチンの実現に向けて

さて、日本の製薬会社による国産ワクチンの開発も、急ピッチで進められています。いよいよ来年にも実現かと期待されるところですが、以下の通り、5社の製薬会社の最新状況をまとめてみました。

塩野義製薬 

ウイルスの遺伝子情報から、抗原タンパク質を作る「組み換えタンパクワクチン」を開発中。これは海外ではインフルエンザワクチンなどで実用化されている。塩野義製薬は年内にも最終段階の臨床実験を開始して、2021年度内を目標に供給開始予定。

第一三共

モデルナ社やファイザー社と同じmRNAワクチンを東大と共同開発中。2022年中の供給開始を目指す。 

アンジェス

阪大発の創薬ベンチャーで、「DNAワクチン」と呼ばれる新しいタイプを開発中。これは複製したウイルスのDNAの一部を体内に取り込んで、免疫を作る仕組み。2022年度内の供給開始が目標。

VLPセラピューティクス・ジャパン

アメリカのバイオ企業の日本子会社。独自のmRNAワクチンを北大などと共同開発中。2022年中の実用化を目指す。 

KMバイオロジクス

明治ホールディングス傘下。従来型の不活化ワクチンを用いた開発に取り組んでおり、「実績ある手法で、安全性に期待できる」としている。2022年度内の実用化が目標。

まとめ

2002年から2003年に中国で流行したSARSの時と同じように、新型コロナも半年くらい経てば収まるだろうというのが、素人の勝手な見立てだったと思います。ところが、今もって最終的な終息宣言がいつ頃出されるのか、全く分からない状況です。これからも人類の疫病との闘いは不意に発生し、これに呼応して、新たなワクチンや新薬の開発が行われていくことでしょう。今後も目まぐるしく変化する世界の創薬・生物バイオテクノロジーの技術からは目が離せません。そして、今回の新型コロナを教訓として、日本の行政や製薬業界においては、さらなる革新的な取り組みに期待したいところです。Resoryでは、お客様のご要望に応じて、世界における様々な市場のリサーチをカスタマイズで行っております。世界各地のあらゆる業界の有力者とのネットワークを駆使して、お客様に新鮮且つ活きた海外の調査レポートをご提供させて頂いております。インターネットでは決して入手できない海外の現場でリサーチした生の情報です。コロナ禍の現在は、海外への渡航が大変難しい状況が続いています。是非Resoryをご活用頂いて、海外のマーケティング活動に役立てて頂ければと思います。いつでもお気軽にご相談下さい。皆様からのお問い合わせをお待ちしております。