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2021.09.14

台湾情勢の緊迫化は世界の半導体不足を引き起こす?

2021年8月19日、トヨタ自動車が9月の世界生産台数を40%も減産するというニュースが世間を驚かせました。新型コロナによる部品供給の混乱と世界的に慢性化しつつある半導体の供給不足が大きく影響しています。実はその半導体の供給不足のカギを握っているのが「台湾」であることは、最近日本のメディアでもよく取り上げられています。その背景には様々な事情もあります。アメリカと中国の政治的な対立、統一問題を背景とした中国と台湾の関係、台湾を引き寄せて中国を牽制するアメリカ。そしてこれらの三角関係に微妙な立場で関与している日本。これから半導体ビジネスを推進していくためには、台湾の半導体産業を巡る現在の状況について、政治と経済の両面から理解を深めておくことが重要です。台湾の半導体メーカーにも触れながら、解説していきたいと思います。

台湾は世界の半導体生産の「台風の目」

世界の半導体生産における台湾企業の優位性は一目瞭然です。2020年時点で「ファウンドリー」と呼ばれる半導体受託生産市場において、世界シェアの約70%を台湾企業が占めています。ファウンドリーとは、相手先が設計・開発した半導体の生産のみを受託して、自社のブランドは使用しないOEM供給を行う半導体メーカーのことです。また、アメリカ半導体工業会(SIA)によると、下図に示す通り、特に先端ロジック半導体の領域では、線幅が10nm(1nmは10億分の1メートル)以下の生産において、生産工場の92%が台湾に立地しており、その他の線幅でも軒並み台湾における生産シェアの高さが際立っています。台湾が非常に重要なポジションを占めていることがお分かり頂けるかと思います。

2019年ロジック半導体の回路線幅別生産国・地域(出典:SIA/BCG「Strengthening the global semiconductor supply chain in an uncertain era」)

自然災害で打撃を受けた台湾の半導体産業

世界の半導体生産をリードする台湾ですが、今年は大きな自然災害に見舞われました。56年ぶりといわれる大干ばつによって、深刻な水不足が発生しました。水不足は水力発電所の稼働にも影響をもたらし、さらに猛暑によって電気使用量の需要が急増したことで、電力不足にも悩まされる事態となりました。半導体産業は大量の水を利用する上に、電力の供給不足は命取りになりかねません。台湾を襲った自然災害は、世界に半導体の供給停止リスクを予見させました。

世界最大手のファウンドリー・TSMC

半導体の供給不足問題がクローズアップされてから、その動向やトップの発言に注目が集まっているのが、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)です。アメリカのアップルやエヌビディアなどを主要顧客とする世界No.1のファウンドリーで、その業界における世界シェアは50%を超えています。半導体不足の解消がTSMCの動きにかかっているといっても過言ではありません。TSMCは台湾の他に中国の南京にも大規模な生産拠点を構えていますが、今年に入って、アメリカ政府の支援を得て、アリゾナ州で新工場の建設を開始しました。さらに7月には、今後日本にも生産拠点を設置する方向で検討に入っていることを明らかにしました。

台湾の主なファウンドリー 

台湾の主な半導体ファブレスメーカー

半導体ファブレスメーカーとは、半導体の設計・開発に特化して、生産はフ

ァウンドリーに委託する企業のこと。

半導体産業を巡る米中の動き

ここで半導体産業を巡るアメリカと中国の動きについて少し触れておきたいと思います。アメリカがファーウェイなど中国のハイテク企業を標的として、アメリカ製の半導体や関連製品の輸出制限を行っていることは周知の通りです。中国はその対抗手段として、海外の輸入製品に依存しない半導体産業の国産化を急ピッチで進めています。さらに時代はスマートフォン、電気自動車、次世代移動通信システム(5G/6G)など半導体の需要が高まるばかりで、半導体産業の育成は国家主導による中国の大きな課題となっています。中国は政治的に台湾は中国の一部であるとして、一貫して台湾の独立を認めていません。したがって、政治的な駆け引きとも一体となって、半導体分野における台湾企業の中国への取り込みや誘致が今後いっそう活発化してくることが予想されます。一方で、政治・経済の両面において台湾を支持するアメリカは、中国の台頭を阻止するために、TSMCのようなキープレーヤーをアメリカに引き込んで、中国と台湾とのデカップリングにますます躍起になってくると思われます。先述のTSMCによるアメリカ新工場の建設は、まさに米中対立による産物と言えるでしょう。

台湾への依存度を高めるリスク

半導体産業における台湾への依存度は既に高い水準に達しています。アメリカ、日本、そしてヨーロッパといった先進国はTSMCを中心に台湾のファウンドリーに対して、各国政府の援助のもと、積極的な誘致活動を展開中です。2021年7月の報道によると、TSMCはドイツにも新工場を建設する可能性があることに言及しています。その反面、米中及び中台対立の激化による地政学リスクは常にはらんでおり、台湾情勢が緊迫化するといつ半導体供給の停止に追い込まれるか、そのリスクにも注意を払っておく必要があります。シンクタンクの日本総研が推計したレポートによると、台湾の半導体産業がストップした場合の世界経済へのインパクトは、付加価値額の年率換算値ベースで、電子製品(スマホ、コンピューターなど)が5,330億ドル、電気機器・機械(家電など)が1,620億ドル、自動車など輸送機械が1,110億ドルという巨額の経済的損失が発生すると試算しています。

まとめ

そもそも半導体産業というのは、「シリコンサイクル」と呼ばれる景気循環を繰り返す浮き沈みが激しい業界です。日進月歩と言われるITやコンピューターの世界と密接に関係し、マーケットの状況は刻一刻と変化していきます。そのような半導体業界でのビジネスには、インターネット上で入手できる情報ではなく、常に現場の活きた「今」の情報が欠かせません。Resoryは台湾はもちろんのこと、アメリカや中国にも現地で活躍するエキスパートとのネットワークがあります。エキスパートが入手してくる最新の業界リサーチや情報を皆様にタイムリーにご提供させて頂くことが可能です。海外のマーケティングリサーチでお困りの場合は、是非ともResoryにお気軽にご相談下さい。